NHK「わが子がキレる本当のワケ」ニッポンの家族が非常事態レポ




子どもたちがキレる本当の理由は、人間の脳や体に備わったしくみが原因だった!


6月11日(土)NHKスペシャル「ニッポンの家族が非常事態!?~第1集わが子がキレる本当のワケ~」を観ました。

息子はまだ小1ですが、いつか来る思春期のためにレポを書いておこうと思います。


〈出演者〉
恵俊彰さん
(3男1女の父。15歳の三男が思春期)
三田寛子さん
(3人息子の母。 15歳の三男が思春期)
池田美優さん
(みちょぱ。モデル。18歳。中学1・2年で反抗期)
レッド吉田さん
(3男2女の父。16歳の次男、12歳の長女が思春期)
明和政子さん
(脳科学・人類進化学 京都大学大学院教授)
渡辺久子さん
(児童・思春期精神科医 世界乳幼児精神保健学会理事)

目次

日本の思春期の現状

原因もわからず、突然キレる息子。
口を閉ざし引きこもる娘。
四六時中取りつかれたようなスマホ依存。

国の調査によれば、思春期の子を持つ親の9割以上がわが子に不安を感じているといいます。


家庭内暴力はこの10年で倍増
インターネット上でのいじめやトラブルは深刻な社会問題になっています。


さらに、思春期の始まる年齢が年々早まり、いまや女子では平均12歳に。
逆に思春期が終わるのは25歳過ぎという事実も、最新研究からわかってきました。

子がキレるのは性ホルモンのせい

子どもたち自身にも説明できない「思春期の暴走」はなぜ起きるのか。

<実験>
アメリカの10代の若者、およそ30人の脳の活動をMRIで分析する実験。

すると、思春期の脳には大人より敏感に反応する場所があることが突き止められたのです。


その場所は「偏桃体」

怒りや悲しみなどの感情を生む中枢です。


若者に「怒りや恐怖の表情」を見せると、偏桃体の部分が大人よりもはるかに激しく反応することがわかりました。


カリフォルニア大学デイビス校 アマンダガイヤーさん
「思春期の脳は『負の感情』にとても敏感であることがわかりました。その分(思春期の若者は)より強いストレスや苦痛を感じやすいのです」


なぜ思春期には過敏で暴走しやすい脳になるのか


そもそも思春期とは、子どもの体から大人の体へと性的な成熟が起こる時期です。

その変化を引き起こすのが、精巣と卵巣から大量に分泌される「性ホルモン」


最近の研究で、この性ホルモンが体だけでなく脳にまで入り込み、劇的な変化を生じさせることがわかってきました。

とくに大きな変化が起きるのが、あの偏桃体なのです。




<実験>
性ホルモンが脳を変化させるパワーの実験。

性ホルモンを、脳の一部を薄く切ったものにふりかけます。

特殊な顕微鏡で観察すると、性ホルモンをかける前の神経細胞は樹状突起という枝が伸びています。




その表面にはいくつもの突起があります。

ここに性ホルモンが作用すると、突起の数が増えました。

この突起はシナプスと呼ばれています。




シナプスは神経細胞同士がつながる接点です。

シナプスが増えると新しい神経細胞のネットワークがどんどん作られていきます。


脳の偏桃体で神経細胞のつながりが増えると、細胞の興奮で生まれた感情がたちまち広範囲に広がり、感情が増幅されます




そうして引き起こされるのが、思春期特有の感情爆発だったのです。

わが子が豹変する理由は、体だけでなく脳まで変化させる性ホルモンのしくみにあったのです。


恵さん
「なぜ思春期の脳はネガティブな感情に敏感なのか」

明和さん
「正確に言えば、ネガティブな感情だけに敏感なのではなく、たとえば”箸が転がってもおかしい時期”ってありますよね。つまり、他人の感情にすごく敏感な時期ということ。ネガティブな感情にはすごく脳が速く反応する」

恵さん
「ネガティブな感情に過敏だとストレスも多い?」

渡辺さん
「もちろん。成長ホルモンや性ホルモンが出ていること自体、自分の中で新しい変化が起きている。そのこと自体が不安で不安でたまらない。お父さん、お母さんが子どもを見て不安になっているが、その100倍くらいが子どもの中に起きていると想像することが大切」

レッド吉田さん
「『うるせえよ』って言われたら親はどう対処していけばいい?」

渡辺さん
「『うるせえよ』という生のやりとりのほうが全然いい。『わー』って言いながらあるところまでいくと「疲れた」とか「いい加減にしとこう」とか、そのやりとりが人格を発達させる。ありのままの私たちを出すしかない。不安の嵐になっているときに、それを安心して出せるのが、お父さん、お母さん、家族

恵さん
「それを出せる家族は大丈夫ということですね」

三田さん
「逆に『勝手にしろ』って言われるのは、子どもにとって致命傷?」

渡辺さん
「それはつらいこと」

レッド吉田さん
「本当にそっとしておいていいの?」

渡辺さん
「(親が)自分のために言っているのか、子どものために言っているのか。一方的に『オレが偉いんだ』という大人になると、子どもはムキになって反発する」

思春期を暴走させるネット社会

スマホなどインターネット上のやりとりでは、思春期の過敏な脳に思わぬ事態が起きることもわかってきた。

<実験>
同じ中学に通う6人の子どもたちに、LINEで自由に会話をしてもらうという実験。

どの子もこれまでネットでトラブルになったことはないと言います。


子どもたちのネットコミュニケーションを研究している、静岡大学教育学部准教授 塩田真吾さんに分析してもらいました。


実験開始後、6人から次々とメッセージが送られてきます。

驚くのはその速さ

”どこへ遊びに行くか”という話題で、目まぐるしくメッセージが打ち込まれていきます。


ところが、会話開始から5分後

会話の速さについていけない男の子が「ちょっとちょっと」と発言。

この一言から会話の雰囲気が一変します。


「もうちょい速く打てないの?」「は?」「なに?」


さらには、「あんたのそういうところが嫌いなのよ」というスタンプまで。

ここで1人の女の子が仲裁に入ります。


「1人で大勢を責めるとか卑怯すぎだろが」


すると、友達が「喧嘩売ってん?」「ゴミ以下ですね(スタンプ)」などと、その後も荒れた会話がエスカレート。

ついには、仲裁に入った女の子が、



と発言。


「この人たちに言ったってムダじゃん」


会話を始めて30分

ついにケンカになってしまいました。


実験後、今回のやりとりを子どもたちに振り返ってもらうと、いつのまにか自分でも驚くほどキツイ言葉を使っていたことに気づかされたようです。


会話が荒れてしまった原因は、あまりにもスピードが速く、顔の見えないやりとりにあると、塩田さんは考えています。


塩田さん
『これを送ったらどう思うだろう』と想像する前に打たないと、そもそも『空気が読めないやつ』になってしまう。それがきっと『いじり』から『いじめ』になって、より深刻になってしまうというトラブルの見積もりの甘さがある気がする」

なぜ子どもたちのネットでのやりとりは、時に歯止めなくキツイものになりやすいのか。


<実験>
中学生に脳の活動をとらえる装置を取り付けた状態で、メッセージのやりとりをしてもらう。

会話の相手は別室の大人。わざとネガティブな言葉を投げかける。

それに答えようとする子どもの脳の働きを調べる実験。


比較のため、大人でも同じ実験を行った。


その結果、どちらも活動が高かったのは言語をつかさどるこの部分。




ところが、脳の前側は大人では活発に働いていますが、中学生はあまり働いていません。




この部分は「前頭前野」と呼ばれています。

前頭前野は脳の中心付近で生み出される強い感情や衝動を抑制する機能を担っています。

大人はこの部分が働いて冷静にやりとりできると考えられます。


ところが、思春期の脳はこの抑制機能が十分働かず、感情的な言葉をそのまま返してしまいやすいと考えられます。


子どもたちのネットコミュニケーションは、仲間との絆は深まるけれども、トラブルも起きやすい。

現代の思春期の脳は悩ましい状況に置かれているのです。


レッド吉田さん
「思春期にスマホをやり続けると、前頭前野の発達は遅れる?」

明和さん
「データではまだ十分にわかっていないが、スマホでのコミュニケーションは文字情報だけ。対面のコミュニケーションにおいて、『うれしい』と言っているけど、心の中では『悲しいんだな』と想像するのは前頭葉の働き
想像する力、相手の心を読み取ろうとする力は、顔を突き合わせたコミュニケーションだからできること
スマホを使わせないということはできなくなっているので、できるだけ前頭前野の働きを親が助けてあげて、スマホでのコミュニケーションと顔を突き合わせたコミュニケーションは、全然質が違うんだよということを丁寧に子どもと話し合うことが大切
そのときに脳がどう発達するのかなど、できるだけ子どもたちが納得できるような説明をしていくしかないと思う」

大人になるための準備期間

多くの動物は思春期に当たるような時期はなく、思春期があるのは、人間だけ


人類のルーツの地アフリカに、大昔の暮らしを今にとどめるマサイ族が暮らしている。

集落のどこを探しても目に付くのは小さな子どもたちや女性。そして、大人の男性ばかり。


14~20歳までのおよそ20人の思春期世代の子どもたちは、親から離れて共同生活を送っていた。


若者たちは、親から牛やヤギを借り受けて、自給自足の生活をしている。

年上の若者から放牧技術など、生きる術を見よう見まねで学ぶ。

いまは大人になるための準備期間

それこそが、はるか昔から受け継がれた思春期本来の意味だったのです。

性ホルモンは「記憶力」を高める

記憶の中枢である海馬

思春期には性ホルモンの作用で、神経細胞同士のつながりが増え、記憶できる容量が増大するのです。


また、感情爆発を引き起こす過敏な脳の偏桃体は、記憶の中枢である海馬のすぐ隣にあります。




偏桃体で強い感情が生まれるとそれが海馬も刺激して記憶を強力に促すことがわかったのです。


マサイ族の若者たちも、強力な記憶力を持っています。

なんと、700頭以上の牛にはすべて名前がつけられていて、すべて覚えているというのです。


彼らはこの驚異的な記憶力を思春期にフル回転させて生きる技術を習得していくのです。

つまり、やっかいな感情爆発には学ぶ能力を高める起爆剤の役割があったのです。

「リスクを好む」という性質も高まる

<実験>
車の運転のシミュレーションを思春期の若者にやってもらった。

交差点に近づくと、信号が青から赤に変わるようにプログラムされている。

安全にスピードを落とすか、それともリスクを承知でそのまま突っ切るかという、若者たちのリスクに対する行動を調べる実験。




大人と若者で実験すると思春期の若者は大人の2倍もリスクのある行動をとりやすいという結果になりました。


リスクのある行動をとるときに、側坐核など快感の中枢が激しく反応していたのです。




だから、思春期には危険で無謀なことをしやすかったのです。


この「リスクを好む」というやっかいな性質にも、大切な意味があることをマサイ族の若者たちが教えてくれました。


実は、マサイ族の若者たちは、敵が襲ってきたときには牛や集落を守る戦士になります。

ケガや死のリスクを恐れず勇敢に戦えるからです。

また、干ばつなどが起きると、新天地を探す冒険に出ます。

思春期の若者たちはまさに、部族が厳しい環境を生き抜く力となっているのです。

思春期の驚異の脳パワー

世界的な脳科学者、カリフォルニア大学サンディエゴ校教授ジェイN.ギードさん。

1000人以上の子どもの脳を調べ、思春期に脳がどう成長するかを初めて突き止めました。


脳を真上から見た画像。

青や緑は未発達な部分。成熟すると赤くなります。




思春期に入ると脳は後ろから前へと成熟が進みますが、丸で囲った前方の2ヵ所は未発達のまま

16歳ごろからようやく成熟しはじめます。




最後まで成熟しないこの脳の部分は前頭前野

あの感情爆発を抑える抑制機能の中枢です。

「脳のブレーキ」である前頭前野を最後まで成熟させない。

これこそが人間の思春期の戦略だといいます。


ギードさん
「前頭前野の成熟に時間がかかることは短所だと考えられてきました。しかし、それによって起こる思春期の衝動はとても重要です。リスクを恐れずに新しいことにチャレンジするからこそ、多くを学び、自立できるのです


解明された脳の発達の全貌です。

思春期に性ホルモンの作用で活発になるのは、脳の中心部分。

感情爆発を生む偏桃体や、記憶力の海馬、リスクを好む側坐核があります。

これらの活動を抑えるのが前頭前野




しかし、脳は後ろから前へと成熟するため、前頭前野は最後まで十分に働きません。

そのおかげで、思春期の高い学習能力やチャレンジ精神が存分に高められるのです。


しかも、その後前頭前野が十分に働き始めるのは、25歳すぎであることもわかってきています。


あえて長い期間ブレーキを効かせないという思春期の脳の戦略。

それは、人間の進化においてとても重要な役割を果たしたとギードさんは考えています。


およそ6万年前

私たちの祖先は住み慣れたアフリカを飛び出し、さまざまな危険が待つ新天地へと旅立っていきました。

人間の繁栄につながったこの無謀な大冒険を成し遂げられたのは、やっかいな思春期のおかげだと考えられるのです。


恵さん
「思春期がなければ人類の繁栄はなかった?」

明和さん
「わたしたち人類の兄弟であるネアンデルタール人は絶滅した。彼らは思春期がほとんどなかったと言われている。リスクを恐れず、好奇心に基づいてチャレンジする力が、ホモ・サピエンスが繁栄した理由の一つと考えられる」

三田さん
「いま男の子が草食と言われたり、うちの一番下の子が反抗期らしい反抗期がなかったから、非常に心配している」

渡辺さん
「マニュアル的に反抗期が出ないといけないということはないが、反抗しないと見えてこない自分や、見えてこない世界の奥行きがある。反抗することで人間力や挫折に強い免疫力が育つ

明和さん
「子どもは親が嫌いだから感情爆発するのではなく、そうしないと自立できないからやっているという真実を親が理解することが大事

ちゃママの感想

独身時代に母とテレビを観ていたら、男の子3人を育てたアグネス・チャンさんが、


「思春期にイライラするのはあなたたちのせいではなく、ホルモンのせいなのよ」


と子どもたちに教えていたと話していました。

「ホルモンのせいだって話すのはいいね!」と母と話していたのを今でも覚えています。


また、ピクサー映画の「ベイマックス」の中でも、ベイマックスが思春期の主人公ヒロに、


「ホルモンと神経伝達物質の数値によると、落ち着きがありません。あなたの年頃にありがちです。
診断名、思春期
体の毛が増えていくでしょう。とくに、顔、胸、わきの下、そして…(ヒロに話を止められる)。
抑えきれない不思議な気持ちになることもあります。大人の男性へと成長していく思春期は混乱の時期とも言えます」


と話していました。
(ベイマックスが家に欲しい!)


今回の番組は、冒頭の10分くらいを息子と観ていました。


「オレもキレるようになるのかな?」

「それは(息子)のせいじゃなくて、大人になろうとして体から出ているホルモンや脳のせいだから、しょうがないんだって」


とさっそく話しました。


脳や体のしくみを親子ともに知っておくことで、お互いの不安が解消されるのかもしれませんね。

長文を読んでいただきありがとうございました!