こんにちは、ちゃママです。
2018年11月5日放送のNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」を見ました。
(再放送は11月11日午後1:05~)
密着したのは、 マルトリートメント(=不適切な養育) が子どもの脳に深刻な傷跡を残すという事実を世界ではじめて科学的に立証した小児神経科医の友田明美さん。
児童相談所への相談件数が過去最多を更新するなか、苦しむ家族に寄り添い希望を見いだしてきました。
友田さんの発言や内容の一部をレポします。
目次
友田さんの信念
友田さんは、福井大学医学部付属病院に勤めています。
主に虐待で心に傷を負った子どもやADHD、自閉症など発達に問題を抱える子どもたちを専門にみる全国でも数少ない診療部門「子どものこころ診療部」を率いています。
外来診察は週に2回。全国から深刻な事情を抱えた親子が次々と訪れます。
診療は薬物療法や心理療法を併用してすすめられますが、友田さんは診察での対話を大切にしています。
診察の大半は子どもではなく親へと向けられます。
ADHDの男の子。
じっとしていることができず、母親はときに厳しく叱りつけてきました。
本当に問題なのは、こうした親の行き過ぎた子育てです。
このマルトリートメントを続ければ、症状が悪化しかねないのです。
友田さん
「何が一番不安?」
母親
「きつくひどく言っていたことが、やっぱり本人には負担だったみたいで。早くノートをちゃんと取れるようになりたいとか日記に書いていた。本人はすごく苦しんでいたんだなと思って」
友田さん
「いや、苦しんでたけどお母さんは悪気があって言ったわけじゃなくて、よかれと思ってやったこと」
友田さんは決して親を責めません。そして、自分の失敗談を話します。
友田さん
「わたしなんか相当失敗をしてきた。頭ごなしに怒ったり、『早くしなさい』って1日10回以上言ったこともある。お母さんは完璧な親を目指す必要はないんじゃないかしら。お母さん大丈夫よ、お母さんの不安を全部ここで捨てていって欲しいのよ」
涙が止まらない母親。
友田さんにはゆるぎない信念があります。
友田さん
「親がいっぱいいっぱい、そのときについついやってしまうのが声を大きくして罵倒して叩いてしまったり、不適切な養育、マルトリートメント。
最初から完璧な親はいない。子どもと一緒に親も成長していく。
そのときに誰かがほめてあげたり評価してあげないと、親も身も心もボロボロになることはある。
親御さんが元気で楽しくやっていれば、子どもさんもおのずと元気になる可能性がある」
友田さんがいま研究の一環として力を入れているのが、親に子どもへの向き合い方を学んでもらうペアレントトレーニング。
発達障害などの子どもの特徴やそれに適したほめ方や叱り方を学んでもらい、家庭で実践してもらう親のための子育て教室です。
参加した母親
「イライラはすごく減った。今まで『なんでできない?』というのがすごかった。でもそれが『できないんだもん、しょうがないじゃん』と思えるようになった」
脳は委縮しても回復する
友田さんが診療とともに力を入れているのが、脳の研究です。
虐待によって脳がどんな影響を受けるのか、15年にわたって研究してきました。
きっかけはハーバード大学への留学でした。
児童虐待の研究における世界的権威マーティン・タイチャー博士と出会い、協同研究に着手しました。
友田さんはおよそ1500人に詳細な聞き取り調査を実施し、体罰を受けた人と受けなかった人の脳のMRI画像を撮影して比較しました。
すると、感情などをつかさどる前頭前野の一部がおよそ19%委縮していることがわかりました。
虐待が脳に与える影響を世界ではじめて科学的に立証したのです。
友田さんはさらに研究をすすめ、暴言を受けた子どもは聴覚をつかさどる部分が変形することも突き止めました。
そして、夫婦間の暴力行為(DV)を見ただけで子どもの視覚野が委縮することも明らかにしました。
友田さん
「見たくない、聞きたくない、言いたくないという脳の自己防衛本能。脳が神経細胞の変化を遂げて小さくなる、サイズを小さくすると考えられる」
昨年度、全国の児童相談所に寄せられた相談件数は過去最多を更新しました。
友田さんの助けを求める親は増えるいっぽうでパンク寸前の状態が続いています。
どれだけ手を尽くそうとも、子どもたちからつらい記憶を消してあげることはできません。
それでも友田さんは「癒えない傷は、ない」と信じるからこそ親子と向き合い続けます。
友田さんの研究によると、傷ついた脳はその後のケアしだいで回復することが徐々にわかりつつあります。
でも科学的に証明するのはまだまだ先になりそうです。
診察にきた愛着障害の男の子
診察に訪れた中学1年生の男の子。
同級生に暴言や暴力をふるうなど感情のコントロールができなかったため、1年前から通院しています。
脳の画像解析の結果、人からほめられると反応する脳の働きが極めて乏しいことが分かりました。
幼少期にマルトリートメントを受けたことによる愛着障害と診断されました。
友田さんは息子への接し方がわからず困り果てていた父親を、この1年間支えてきました。
男の子は複雑な家庭環境で育ちました。
3歳のときに両親が離婚し、母親に引き取られました。
しかし、育児に行き詰まった母親からナイフで脅されるなど虐待を受け、10歳でネグレクト(育児放棄)されました。
2年前、父親に引き取られたときには心に深い傷を負っていました。
父親
「ゲームも買って欲しいとかいう子どもの要望、要求が出てきて、ちゃんとしないと買わないんだって言ったら、子どもが包丁を出してきて『殺すぞ』と。
もうここまで感情がゆがめられているんだなと」
友田さんの診療を受け、父親が粘り強くわが子と向き合い続けた結果、着実に問題行動は減っていました。
しかし、月に1度の児童相談所での面談の日。
父親とのささいな口論で、男の子は突然車に閉じこもってしまいました。
15分後、待合室にやってきたものの父親を無視し、床に寝転がるなどの行為を繰り返しました。
回復しつつあると思った矢先に顔をのぞかせる心の傷。
出口の見えない日々に父親の心はすり減っていました。
父親
「明日うまくやっていけるだろうか、まずは1日1日をクリアしていけるだろうかという思い。でもやっていかなきゃいけないんだという2つの極限的な感情がある」
10日後。
友田さんは親子を病院に呼びました。
男の子の脳を画像解析し、回復を目に見える形で示すことで父親の背中を押したいと考えました。
どれだけ治療を施そうとも、本当の意味でこの子を癒すことができるのは父親しかいない。
診察では父親がどう変わったのか、男の子に問いかけていきます。
友田さん
「あまり怒らなくなった?それともほめてくれるようになった?それよりも少し見守ってくれるようになった?」
男の子
「ここまでのすべて」
友田さん
「すごいね、感謝しているんだ」
男の子
「うん」
友田さん
「お父さんに感謝してるって、お父さん病気できないね」
息子のたしかな成長を知り、父親に自信を持って欲しかったのです。
2週間後、画像解析の結果が出ました。
1月から7か月間で脳の血流が改善していました。
すぐさま父親に電話をかけます。
友田さん
「びっくりするくらい、脳の働きが戻ってきています。とってもうれしい。お父さん、ここまでがんばった。お父さん偉いね。・・・わたしのおかげじゃなくて、お父さんが頑張ったからよ」
父親
「友田先生の言っている『親が変われば子は変わる』という言葉が、今すごくわかる。路頭に迷っていたところをポンと救ってくれて、成長させてくれた。本当に救世主」
友田さんのこれまで
友田さんは1960年熊本生まれ。
何事も決めたらやり抜く、まっすぐな女の子でした。
高校時代、仲の良かった親友がある日突然学校に来なくなりました。
自宅を訪ね「待ってるよ」と励ますと、「来週から行こうかな」と彼女は言いました。
でも、学校にはなかなか戻ってきませんでした。
大切な親友の力になれない自分。心の奥底に深く残りました。
高校卒業後、熊本大学医学部に進学。
困っている人を救う医師を志しました。
研修医になって1年目。
当直の夜、救急搬送されてきた3歳の男の子。
頭は内出血で腫れあがり、意識はありませんでした。
両親は寝ぼけて階段から落ちたと言いましたが、服を脱がせるとタバコの火を押し付けられた痕や殴られた痕が目に飛び込んできました。
友田さん
「『あ、これは虐待だ』と。男の子が自分で転んでケガをしたのではなく、親が殴っている。(頭蓋骨に)ヒビも入っていた」
懸命の治療のかいなく、3日後、男の子は息を引きとりました。
友田さん
「無力感。『あぁ、私たちは何もできないんだ』『児童虐待を止めることができないんだ』と。救命救急センターに運ばれてきたときは遅すぎる」
傷ついた子どもたちを救いたいと、28歳のときに小児神経科医として子どもの心を診始めました。
でも子どもは簡単に心を開いてくれないうえ、その心は見えづらい。
しかも、薬を投与すればすぐに治るという治療とは根本的に違いました。
焦った友田さんは、子どもの親を厳しく説教することもありました。
すると、相手も心を閉ざし、診察はたびたび行き詰まりました。
友田さん
「この医師に相談してもらちが明かない。落胆、怒り、『もういいです』と。あからさまに『別の医師を探します、別の病院を探します』と言われ、泣きそうだった」
患者と向き合う外来診察が憂うつになりました。
上司に相談すると引きとめられたうえ『カリスマ性を身につけなさい』と言われました。
家に帰ると幼い娘が駄々をこね、ときには夜泣き。
仕事でストレスを抱えこんでいた友田さんは、つい子どもに手をあげ、マルトリートメントに及びました。
仕事でも結果を出せず、家でもいっぱいいっぱい。
「この仕事は向いていない」と5年間悶々と過ごしました。
そんな友田さんを変えたのは、一つの出会いでした。
ある日、突然学校に行けなくなったという女の子が診察にきました。
高校時代助けることができなかった親友と同じでした。
母親によると、娘を立ち直らせようした父親のしつけがエスカレートし、体罰が日常的に行われていました。
父親は会社をリストラされていたのです。
友田さんは母親に、父親の話をよく聞いてあげるようアドバイスしました。
その女の子だけでなく、家族と正面から向き合ったのです。
やがて父親は再就職し、家族に平穏が戻ると女の子は回復し、学校に通えるようになりました。
友田さんは近所のおばさんのように自らの失敗談を話し、親を励まし始めました。
おせっかいと嫌がられようともどこまでも寄り添う。
「カリスマなど特別な力はいらない」と思えるようになりました。
そして、子育てが落ち着いた43歳のときハーバード大学に留学。
虐待が脳に与える影響を世界ではじめて明らかにしました。
数えきれない失敗があったからこそいまの友田さんがいるのです。
自閉症の娘がいる家族
8月、熊本。
かつて診ていた子どもを診察するため、いまも月に1度福井から通い続けています。
この日母親とやってきたのは10年前から診察している自閉症の女の子。
この子には自閉症の妹がいます。
上手く関係が築けず、毎日のようにケンカが起きていました。
母親はその対応に追われ、ときに手をあげ、姉妹にマルトリートメントを行っていました。
友田さんはこの日、いつになく母親が痩せているのが気にかかりました。
娘の世話に加え、手術したばかりの親の介護。
仕事が忙しい夫には頼れず、自傷行為を繰り返すまでに母親は追い詰められていました。
友田さんは夏休みのあいだだけでも子どもを児童養護施設に預け、入院して体調を戻すよう母親に提案しました。
しかし、最後まで母親が首を縦に振ることはありませんでした。
友田さんは夫を呼び出して相談することにしました。
しかし、夫は妻の入院には同意したものの、娘を施設に預けることはかたくなに拒みました。
父親
「(娘を児童養護施設に)入れたとすると、本人は『捨てられた』と思う」
友田さん
「そこはわたしが説得する」
父親
「わたしは捨てるような行動はしたくない」
友田さん
「捨てるんじゃない」
父親
「それは人の受け止め方。親からすれば、誰かに預けるということは捨てるのと同じ行為」
医師の本分はあくまで患者の治療にあります。
しかし、友田さんは家族の問題に踏み込むことに全く躊躇しません。
友田さん
「お父さん間違っているよ」
父親
「自分が本当に全部手を尽くして、もうどうしても音を上げるぐらいやったうえだったらそれはわかる」
友田さん
「今がそうじゃない」
父親
「まだですよ」
友田さん
「今がそうよ」
友田さんには絶対に譲れない信念があります。
結局、40分かけて説得したものの、父親は最後まで譲らずに帰っていきました。
友田さん
「わたしは大したことはできない。これだけの時間を使ってもやっぱりできないときはできない」
友田さんは連携する地元の児童相談所に電話をかけはじめました。
家族を見守って欲しいと繰り返し頼みました。
福井に戻ったあとも友田さんは家族のことを気にかけていました。
追い込まれるほどに周りが見えなくなり、悪循環に陥る家族。
やがて孤立し、悲惨な事態を招いてしまうケースを幾度となく目にしてきました。
友田さん
「あの親子に寄り添いたい。見過ごして通るわけにはいかない。なんで社会が食い止められないっていうケースばかりある」
再び熊本に飛んだ友田さん。
家族のために新たな提案を用意していました。
長女を施設に入れるのではなく、在宅ケアを利用しながら家族を立て直してはどうかという心の底からのお願いをしました。
友田さん
「私ね、すごくおせっかいなんですよ。関わったらもう身内ですよ」
30分後、父親が静かに語り始めました。
父親
「正直お金なんです。金額はいくらかかるのか」
友田さん
「そこは相談しましょう」
友田さんはその場で支援センターに電話をかけ、補助金の申請など費用の相談に乗ってもらえるように頼み込みました。
友田さん
「やっぱりお母さんにもお父さんにも幸せになって欲しい」
しつこくおせっかいを焼き続けます。
友田さん
「いっぱいいっぱいだから頼っていいって」
父親
「そうですね」
父親ははっきりとうなずき、家族は一歩踏み出しました。
友田さん
「まだまだ道のりは遠いけれど、わたしもご家族と一緒に寄り添って子育てを見守りたい。子どもさんが成長して、子離れ親離れするまでずっと。そのときまでわたしが元気であれば」
友田さんに聞くプロフェッショナルとは、
これがわたしのプロフェッショナルです。
ちゃママ感想
友田さんの「救いたい!」という強い意志や、マルトリートメントのせいで感情のコントロールがうまくできなくなってしまった男の子の回復など、見ているうちに涙が出てきてしまいました。
最後に、番組内で一番印象に残った友田さんの言葉を書いておこうと思います。
友田さん
「人間は失敗しない生き物ではない。人生のなかでいっぱいトライアンドエラーして、そして子どもも大人も成長していく。
わたしもいっぱい失敗してきたし、最初から完璧な親はいない。
赤ちゃんが産まれて0歳になったとき、親も0歳。
赤ちゃんが育って3~4歳のころに、やっと親も3~4歳の経験になる。
人生はライフサイクル1回しか味わえない。
その中で出会えたわが子。
そのわが子と貴重な機会を、子育ての機会をエンジョイしてもらいたい。それだけ」